#03
カメラバッグは夕方に選べ

革靴は夕方に買いに行くのがいい、というのは定説だ。足はむくんで大きくなっていくから、午前中にフィティングをするとあとで痛い思いをする。
でもJ.M.ウエストンのような店に入って、ローファーを選んでもらうと、自分が思っているよりひとつ下のサイズを選ばれることが多い。足が痛くて履けないと言うと、しばらく我慢すれば最上のフィットが得られるのだと言う。高いものだから失敗したくないけれど、伝統を信じるしかない。
初めのうちは靴を履くのが憂鬱になる。でも高い買い物だったから我慢して履く。かたちは美しいし革質は最高なのだ。やがて痛みが消えるころ、「革靴が足にフィットするというのはこういうことなのか!」と驚くような感覚を得られる。

はじめてカメラバッグを買いに行くとき、先輩に付き添ってもらったら、「ちょうどいいと思うサイズよりひとつ大きなものを選ぶといいよ」と言われた。「必要なものってあとから増えるからね。ストロボとか交換レンズとか」
そのアドバイスは正しかった。小さなバッグに機材をぎゅうぎゅうに詰めると取り出しづらくなる。余裕のある大きめのサイズのほうがいい。靴は夕方に選べというのと同じことだ。
でも今、もしぼくがカメラバッグを買いに行く人にアドバイスするなら、「写真がうまくなりたかったら、ちょうどいいと思うサイズよりひとつ小さなものを選ぶといい」と言う。

小さなバッグを持つといいことがふたつある。ひとつめは、しまうのが面倒だからカメラをいつも首から下げるようになって、チャンスを逃さなくなること。もうひとつは、少ない機材でどう撮ろうかと工夫をするから、安易に交換レンズなどに頼ることなく、写真に勢いのようなものが生まれること。もちろんバッグが小さいおかげでフットワークも良くなる。軽いから歩き疲れない。
この写真のバッグを初めて使ったとき、小さすぎるんじゃないかと思った。でもいまでは最上のフィットを感じる。いちど洗いをかけて馴染ませたので、革とキャンバスにコントラストが生まれた。カメラと同じライティングをして美しく写るバッグを初めて見たような気がする。いい素材を選んでいるからだと思う。

内田ユキオ

新潟県両津市(現在の佐渡市)出身。公務員を経てフリーに。
タレントなどの撮影のかたわら、スナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。現在は写真教室の講師も務める。
自称「最後の文系写真家」。データや性能だけではないカメラの魅力にこだわりを持つ。

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